行政書士法の改正とあるべき業務の姿

小倉純一です。

トラスティルグループでは、グループ代表と行政書士部門の代表を務めています。

今回から、ブログもリニューアルということで、張り切って書いていきたいと思います。

さて、業界関係者以外はご存じないことと思いますが、先月閉会した本年の通常国会では、行政書士法の改正が成立いたしました。

内容としては、所定の研修を修了した行政書士を「特定行政書士」とし、行政書士が代理した許認可申請等に関して、行政不服審査法に基づく、不服申し立てを行う代理権を付与するというものです。

この改正が、行政書士に、そして我が事務所にどのような影響を与えるのか、考察してみたいと思います。

今回の改正は、行政書士にとって「悲願」であったと日行連(日本行政書士会連合会)は、表現しているようですが、私のように許認可を専門とする行政書士にとってはまさにその通りであると思いますし、改正が通った今だから言えますが、これが無い状態では、とても「行政手続の専門家」とはいえないと思うのです。

これには、2つの意味があります。

一つは、利用者が行政書士に依頼して、許認可申請をしたものの、何らかの事情で不許可になった、という典型的な場面を想像して欲しいのですが、このとき申請を任せて事情をよく知った行政書士が、自分は不服申し立ての代理権がないから・・と言って去っていったら、そんな人に最初から頼まなければよかったということにならないでしょうか。

行政書士でないと、業として許認可申請書類を作成できないとしている行政書士法の趣旨は、国民に重大な利害を生じさせる行政手続については、法令と手続を熟知した行政書士に独占的に取り扱わせることにより、国民の権利を守ることにあると解するべきであるところ(これまで必ずしもそう考えられていない事は承知しています)、申請の結果、不当な行政処分が行われたときに、何もできないのでは、行政書士の業務独占が国民の権利を守ることにつながるというロジックに破綻をきたしかねません。

(私自身は、自由競争で資格の有無に関わらず、サービスの質を競うのもそれはそれで、有りなのではないかとも思いますが)

二つ目は、特に申請件数がそれほど多くなく、処理が定型化されていない、平たく言うと高難易度の申請手続においては、行政の担当者による裁量の幅が大きく、個別の案件ごとに担当者との折衝を重ねる必要があり、時に、激しく主張が食い違うことがあります。

そのような場合、私はこれまであの手この手で切り抜けてきましたが(典型的には、法令による理論武装を完璧に整えた上で、上級官庁に申し入れることでしょうか)、今後はそのようなときに「不利益処分して下さい、不服申し立てしますから」というセリフが言えるようになります。

現在でも、言っても別にいいのですが、「不服申してするぞ!(本人が)or(弁護士が)」というのでは、迫力に欠けますし、このように出来ることが限定された人間が行政手続の専門家として役所に来ても、いかにも半端・不完全です。

えてして、担当者の指示や行為(典型的には、届出書の受理拒否)は、法令上は根拠がなかったり、違法であったりするため、不服申し立てされると担当者は困ると思います。結果的に、不服申し立てという「伝家の宝刀」をちらつかせることで、不当な行政指導を止めさせる、いわば抑止力となるのではないかと考えます。

伝家の宝刀ですから、抜くことはない、つまり実際に行政書士が不服を申立てる件数はそれほど多くはならない(そもそも行政書士は不服を申立てる必要がないよう、申請等を通すのが仕事です)のではないかと予想しますが、件数に現れない、深い意味があるのです。

もちろん、これで行政書士が急にけんか腰になるべきでもありませんが(私は、役所で頭下げて許可が下りるなら、いくらでも下げます!)、長い目で見て、行政書士の仕事に質的な転換をもたらすことにつながり得るのが今回の法改正であると私は評価しています。

新たな権限を得たことによる専門家としての信頼度の向上、役所との交渉力の強化をばねに、行政書士はこれまで以上に、難しい・結果の予測可能性がない方向の許認可申請に取り組んでいくべきです。

5万人近くいる行政書士一人一人の適性と能力を、今回の特定行政書士の研修だけで担保するのは難しいと思いますが、国民から信頼される制度となるよう、努力せねばなりません。

私も、なんとか時間を確保して、特定行政書士の付記を受けたいと思っていますし、事務所の勤務行政書士にも必須のものとして、不服申し立ての代理権を得させるつもりです。

そして、その先には、お客さまの利益を守る必要性が高い、より難易度が高い手続において、不服申し立てをする必要がない高品質のサービスを提供することと、各手続の専門家が集まる事務所として、許認可等の行政手続全体の知見を深めていくことにより、お客さまに、そして行政にも一目置かれる、いい意味で影響力のある事務所を目指していかなければならないと考えています。

道は遙かですが、一歩一歩こつこつ精進していきたいと思います。