新株予約権(ストックオプション)、役員と従業員の士気向上策!

新株予約権(ストックオプション)、役員と従業員の士気向上策!

「ストックオプション」、70年代に米国で始まったこの仕組みが、1997年に当時の商法の改正により日本でも制度化されてから四半世紀、日本でもさまざまな場面で活用され、すっかり定着しているように感じます。

しかし、ストックオプションという言葉だけは知っているけれど、具体的には…という方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ストックオプションは仕組みが複雑でその設計方法もさまざまあり、ここで全てを書けるものではありませんが、今回はその仕組みや効果について簡単にご説明します。

ストックオプション(新株予約権)とは

ストックオプション(stock option)は、「会社の役員や従業員が、自分の会社の株式を、所定の価格で、会社から購入できる権利」のことです。
英語でストックとは株式のことで、オプションという単語には、「選択」「(取引などを)選択できる権利」という意味があります。

日本では、「新株予約権」の用語で、会社法に定義されています。漢字を見れば「新しい株(の取得)を予約する権利」とイメージできることでしょう。

ストックオプションの仕組み

例えば会社が、自分の会社の株式を1株につき6,000円(行使価格)で会社から取得できるストックオプション(新株予約権)を、役員や従業員に対し、市場の株価が1株2,000円のときに与えたとします。(一般に行使価格は現在の株価よりも高めにします)

その後、会社の業績が向上して株価が1万円になったらどうでしょうか。役員や従業員は、権利を行使して1株6,000円で株式を取得し株式市場で売却すれば4,000円を儲けることができます。
そうなると、役員や従業員は、会社の業績を良くして自社の株式を上げれば自分自身も儲けが出るので奮起し、役員や従業員の士気が高まる、というわけです。
仮に、その後も株価が低迷して2,000円のままだったらどうでしょうか。その場合は、役員や従業員は、(権利を行使すると、売却してもマイナスになるため)権利を行使せず、放棄すればいいわけです。新株予約権は、たいていは無償で(有償であったとしても廉価で)与えられます。権利を放棄してもほとんど実損はありません。

以上がストックオプションの簡単な仕組みです。

役員や従業員からすると、ストックオプションとは、損をすることはまずなく、将来(確実に上がるわけではないものの)、自分たちの頑張りで自社の株価が上がれば大きなリターンがあるもの、といえます。
従業員等と利害を共有できる会社としても、(付与するのは実物ではなく権利であるから)キャッシュを社内に維持したまま、役員や従業員の士気を高められるメリットがあります。

他の士気向上策との違い

もちろん、役員や従業員の士気向上策は他にもありますが、なぜストックオプションが効果的といえるのか例を挙げて比較してみましょう。

例:役員報酬や給料を増やす

通常これらは金銭で支払いますので、社外へキャッシュの流出を増やすことになり、会社の手持ち現金の減少を招いてしまう弊害があります。
その点、実物を与えるわけではないストックオプションは、この弊害とは無縁といえます。

例:ストックオプションではなく株式をすぐに取得する

例えば、現在の株価と同じ1株2,000円で、会社から取得する場合、役員や従業員としては出資金をすぐに用意しなければなりません。また、将来株価が下がって損をしてしまうかもしれないのに、お金を出してまで自社の株式を取得したいと思うでしょうか。 さらに、1株2,000円で取得した後株価が少し値上がりして、1株3,000円になったときに役員や従業員が売却してしまえば、(彼らは利益を得られますが)それ以降は士気を維持できるか、疑問があります。

ストックオプションであれば、権利を行使しない限り役員や従業員が出資金の用意する必要はありません。会社としても士気を長期的に維持できるメリットがあります。

※なお、従業員に自社株式を保有する策は、従業員の福利厚生と会社の安定株主に寄与する「従業員持株会」のような仕組みがありますので、制度の作り方によっては会社経営にメリットがあります。

ストックオプションの注意

ストックオプション(新株予約権)の導入には、次のとおりさまざまな検討事項があります。

まず、長期的に士気を向上できる妥当な行使価格を検討する必要があります。
例えば、行使価格が、現在の株価の1000倍にしたらどうでしょうか。役員や従業員からすると、どうせそこまで株価が上がらないと思い、士気が高まりません。
逆に、すぐに株価が追い越してしまうような行使価格であれば、権利が早めに行使され、長期的に士気の向上策にはなりません。

権利が行使されたときのことも予め決めておかなければなりません。
例えば、権利を行使された場合に取得できる株式数は何株か、行使する際に従業員等が会社に支払うのは金銭のみかそれ以外のものでもいいか、最長で何年先まで行使できるとするか、などです。

次に、権利行使までの役員や従業員の状況の変化をどうするか、です。
退任や退職した場合はどうでしょうか。ストックオプションが従業員等の士気向上策だとすると、退職等の後まで権利を行使できるとするのは疑問があります。また、会社に対し背任行為をした従業員等はどうでしょうか。
付与しっぱなしとならないように、付与後に権利が失効する条件なども検討しておかなければなりません。

さらに、会社の状況が変化した場合はどうするか、もあります。
例えば、行使価格を1株6,000円にしてストックオプションを与えた後で、会社が別途増資や株式分割をしたり、他社と合併したりした場合はどうでしょうか。一般には、それにより行使価格が不適切にならないような調整を決定しておくことが多いですが、それも複雑です。

ストックオプション(新株予約権)は、仕組みは複雑で、検討することも多く内容を詰めるのもなかなかの難作業です。専門家と相談しながら進めることをお勧めします。

ストックオプション(新株予約権)導入の手続き

ストックオプション(新株予約権)は、必ずしも従業員等にしか付与できないわけではなく、一般の方から引き受けてもらう人を募集する場合もあり、手続きもケースバイケースです。役員や従業員に付与する場合に沿った大体の流れは次の通りです。
※順番はれ替わることがあります

① ストックオプションの内容(行使価格その他の条件)の検討

② ストックオプション新の募集事項の決定

  • 発行する新株予約権の数、新株予約権の発行は無償か有償か
  • 従業員等の各別に付与する新株予約権の数

③ ストックオプション契約書(会社と従業員等との間)の作成

④ 株主総会の特別決議(①新株予約権の内容、②募集事項を承認)

⑤ 取締役会がある場合は、取締役会決議(③の従業員等の各別の契約を承認)

⑥ 従業員等との③ストックオプション契約書の締結

⑦ 新株予約権が有償の場合は、従業員等から会社へ期日までに払込み

⑧ 法務局へ登記の申請

ストックオプションは、③のストックオプション契約書や⑧で申請する登記の内容もボリュームが多く、難易度が高いものです。専門家のアドバイスを得ながら進めましょう。