金融商品取引と投資被害(1)

~代表的な金融商品と主な投資被害・違法勧誘・販売行為の類型

金融商品取引と投資被害(1)

昨今、個人のライフプランニングとして、金融資産を運用する必要性が益々高まっています。
一般の方々が金融商品取引と関わりを持つことが珍しいことではなくなる一方で、「投資被害」もまた、誰にでも起こりうる身近なトラブルになってきています。

「投資被害」とは、一般的には、広く金融商品取引に関する被害のことを意味します。もちろん投資は自己責任で行うべきものですので、「投資で損をした人」=「投資被害者」ではありません。ここでいう投資被害は、一般市民(すなわち消費者です。一般投資家とも言われます。)が、金融事業者の不正行為や違法不当な勧誘・販売行為等によって、財産的損害を被っている状態のことを指します。

この記事では、投資被害を受けられている可能性がある方、あるいはそうならないよう注意して金融商品取引を行いたい方に向けて、投資被害とその解決法について、解説していきます。

まずは、一言で「金融商品」と言いましても、株券、国債、社債、投資信託、外国為替証拠金取引(いわゆるFX)、金融デリバティブ、商品ファンド、不動産ファンドなど、その種類は多岐に渡っていますので、それらについてご紹介いたします。

投資被害で登場する代表的な金融商品をご紹介します。

株式

株式会社が発行する株式は、最もポピュラーな金融商品です。株式の購入時の価格より、売却時の株価が上回っていれば値上がり益(キャピタルゲイン)を得られます。企業の業績に応じて配当収入(インカムゲイン)も得られます。ただ、価格変動リスクが高い商品と言えます。

社債

社債は、企業が投資家から資金を借り入れる資金調達の手段として発行する債券です。信用度の高い企業の社債は安全性が高い反面、利回りは低いです。信用度の低い企業は利回りが高いですが、リスクも高いです。

仕組み債

仕組み債は、スワップ(通貨や金利の交換取引)やオプション(あらかじめ約束した価格で将来売買できる権利)などのデリバティブ(金融派生商品)を組み合わせた債券です。仕組み債は、利率や償還額が変動する点が特徴です。また、取引単位が高額であるため、個人の富裕層や法人代表者が勧誘の対象になることが多いです。

外貨建て金融商品

外貨預金の他に、外国株式(外国籍の企業が発行する株式)、外国債券(発行企業、通貨、発行場所のいずれかが外国である債券)があります。いずれも、商品自体の値動きと為替の値動きによって、二重のリターンが期待できますが、反面、二重のリスクがある商品と言えます。

投資信託

一般的な投資信託は、不特定多数の投資家から小口の資金を集めてファンドを形成し、投資の専門家であるファンド・マネージャーが、有価証券への分散投資によってファンドを運用して、利益を投資家に分配する仕組みです。今では銀行や郵便局、インターネットでも販売されて、人気の金融商品の一つです。比較的安全な金融商品と言われていますが、元本保証はありませんし、ハイリスクハイリターン型の投資信託もありますので、投資被害の可能性は常に潜んでいます。

集団投資スキーム(ファンド)

集団投資スキームとは、複数の投資家からの拠出金を集めて、投資の専門家が運用し、それによる収益を投資家に分配する仕組みを言います。大きく、投資型ファンド(有価証券に投資するもの)、事業型ファンド(特定の事業に投資するもの)、商品ファンド(貴金属や農産物などの商品先物や、通貨、金利、債券などの金融先物などに分散運用するもの)といった分類がなされています。集団投資スキームは、合理的な投資手段の一つではありますが、投資家と専門家の間に情報量や能力の格差があるため、専門家に対する投資家の監督が及ばず、ともすれば投資家の利益が犠牲になる危険性があります。また、投資経験の乏しい投資家が不当な勧誘を受けて損害を被る危険性もあります。

外国為替証拠金取引(FX)

外国為替証拠金取引は、証拠金として預け入れた資金の10倍、20倍といった高倍率の為替取引ができる、いわゆるレバレッジを利かせた商品です。少ない投資で大きな取引ができ、大きな利益が期待できるとして、昨今、個人投資家に非常に人気があります。ただ、極めてハイリスクハイリターンの商品でありますし、悪質な業者によるトラブルも少なくありません。

比較的よく見られる投資被害の例をご紹介します。

以下に挙げるようなケースに心当たりはございませんか?
お客さまのご家族やご友人から、似たような話を聞いたことはございませんか?
少しでも気になることがございましたら、ぜひ一度トラスティルグループにご相談ください。

法人代表者への勧誘による被害

「社長、会社の資金を長期的に安全に運用しませんか?」などと業者から勧誘された法人代表者が、経営の継続的安定のために良かれと思って取引を開始したものの、実際はハイリスクハイリターンの商品であったために大幅な損失を計上してしまう、というケースです。例えば仕組み債などは、取引単位が高額であるため、法人代表者が勧誘の対象となることが多いですが、決して安全な商品ではなく、ハイリスクで賭博性の高い商品です。法人の投資被害は莫大な被害金額になることが多く、被害回復に向けた速やかな対応が必要不可欠です

主婦・高齢者への勧誘による被害

「老後の生活に備えて今のうちから運用を始めましょう」、「せっかくの預貯金をそのまま寝かせずに投資で有効活用しましょう」などの業者の誘い文句に乗って、これまで金融商品取引には全く無関心で経験もなかった主婦や高齢者が、取引の内容やリスクを十分に理解しないまま、取引を初めてしまい、結果として大切な生活資金を失ってしまう、というケースです。投資の被害者には、主婦や高齢者がとても多いのが特徴です。

追加取引勧誘による被害

「ご迷惑をお掛けしました。早く元金を取り戻しましょう。こちらの商品をお勧めします」など、既存の取引で損失が生じている状況で、その損失を回復しようと、勧められるままに追加で別の取引を初めてしまい、結果として益々損失が拡大してしまう、というケースです。例えば、既に仕組み債で大きな損失が出ているにもかかわらず、その仕組み債を担保にする形で、新たに為替デリバティブを勧誘するといった強引なケースもあります。損失をすぐにカバーしたいという心理が働いているため、商品のリスクを冷静に見極めないまま、安易に判断してしまいがちです。

新しい金融商品勧誘による被害

「全く新しいタイプの金融商品が出ました。これで安心の投資が可能です」などと、新しく登場した金融商品であることを業者からアピールされて、商品の内容やリスクをよく理解しないまま取引を開始してしまい、損失が出てから、「こんな商品だったのか」と初めて気がつく、というケースです。金融の世界では次々と新しい仕組みの商品が生まれますので、勧誘する側の業者の方でも、その商品の内容やリスクを正確には理解していないということが珍しくありません。業者が理解していないわけですから、顧客が理解できるはずがありません。

詐欺にあたるケース

投資詐欺による被害

「利回りは20%です」、「1年後には倍になります」など、高配当をうたう業者の架空の投資話に乗せられて、多額の出資をしたところ、何も配当金が支払われないまま、気付いた時には業者は事務所をたたんで逃げていた、といった悪質な投資詐欺のケースです。このような投資詐欺を実行する業者は、そもそも金融商品取引業者として登録されていない違法な無登録業者であることが多いです。

未公開株詐欺による被害

「上場確実な株が簡単に手に入ります。必ず儲かります」など、ある日突然、業者から電話が入り、ありもしない未公開株の購入を勧誘され、よく確かめもしないままお金を指定口座に振り込んだところ、それっきり何も連絡がとれなくなった、といった悪質な未公開株詐欺のケースです。最近、増加傾向にあります。オレオレ詐欺同様、高齢者が狙われることが多いです。

このように明らかに詐欺にあたるケースで、業者が既に逃げてしまい、所在もつかめない、連絡もとれない、といった状況ですと、民事的に損害賠償請求するという形での被害救済は難しいかも知れません。そのような場合、刑事告訴をして刑事的責任を追及するという方法もございます。トラスティルグループでは、刑事事件に強い弁護士が刑事告訴のサポートもしておりますので、ぜひご相談ください。

ここまで投資被害の例をご紹介いたしましたが、それでは、実際に被害回復つまり損害賠償請求等が可能な場合とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。

例えば、以下に挙げるような勧誘・販売行為等を受けた結果、投資被害に遭われた場合、金融事業者に対し、法的に損害賠償請求等が可能です。

1.顧客に適合しない取引を勧誘

一言で金融商品と言いましても、その種類は実に多岐に渡っており、シンプルな株式取引もあれば、専門家でも理解が難しい複雑なデリバティブ取引などもあります。
ですので、本来、顧客の投資目的や財産状態、投資経験などに照らして、その顧客にふさわしい金融商品と、ふさわしくない金融商品があるはずです。

しかし、現実には、例えば、投資経験など全くない高齢者の顧客に対して、およそ内容を理解することが不可能と思われるデリバティブ取引を勧誘するようなことが平然と行われていたりします。
このように、明らかに顧客にふさわしくない金融商品取引を勧誘する行為は、「適合性の原則」に違反していると評価されます。投資被害の中でも比較的よく見られる類型です。

2.取引内容やリスクの説明が不十分な勧誘

金融事業者は、顧客に対し、投資内容を十分理解し自己責任において投資判断をなし得るための情報(当該取引契約の概要やリスク情報等)を、積極的に提供する義務があります。

しかし、実際には、顧客から特段説明を求められないことを良いことに、取引の内容とリスクを十分に説明せずに、有益性や安全性ばかりを強調して勧誘することが少なくありません。
このように、顧客の知識、経験、財産の状況および契約締結目的に照らして、その顧客に理解されるために必要な十分な説明が尽くされたと言えない場合は、説明義務に違反していると評価されます。

「大丈夫ですよ」、「安心ですよ」、といった言葉には要注意です!

3.断定的な判断を提供する勧誘

「この株は上がります」、「これから円安になります」、といったように、金融事業者が、顧客に対し、本来不確実な事項について断定的判断を提供して勧誘することは禁止されています。また、顧客が確実であると誤解するおそれがあるような言い方での勧誘も同様です。

このような勧誘が禁止されているのは、専門家から断定的な判断を提供されると、素人である顧客にとっては非常に頼もしく感じられて、自分で判断することをせずに安易に取引に誘導されてしまうからです。

4.虚偽の告知

金融事業者が、顧客に対し、金融商品取引契約の締結または勧誘に関して、虚偽のことを告げる行為は禁止されています。これは、その内容が重要事項であるか否かに関わりません。虚偽の内容が含まれる勧誘からは、「自己責任」を問える取引など発生しないのは当然です。

5.損失負担や利益保証を伴う勧誘

「万が一損が出たらその分は負担しますよ」、「元金は保証しますよ」、という言葉には要注意です!
金融事業者が、顧客に対し、損失負担の約束や利益保証を伴う勧誘をする行為は禁止されています。
金融商品取引の世界で、「保証」などという甘い概念は存在しません。

6.過当取引

過当取引とは、金融事業者(主に証券会社)が、取引における顧客の口座に対し支配を及ぼし、当該口座の本来の性格に照らして、金額・回数において過剰な取引を実行することを言います。会社としてはそれだけ手数料が稼げます。
顧客の利益よりも会社の利益を優先する発想が根底にあり、極めて問題です。

7.一任売買

一任売買とは、金融事業者(主に証券会社)が、顧客の個別の取引ごとの同意を得ないで、売買の別、銘柄、数または価格を定めて、顧客のお金で取引を行うことを、顧客と合意することを言います。
正式に投資一任契約を締結すれば一任売買は許容されますが、実際には、投資一任契約を締結しないまま、「全てお任せ下さい」との言葉に乗って、一任売買が行われることがあります。

このような曖昧で無責任な信頼関係こそが危険なのです。

この記事では、投資被害について、代表的な金融商品や主な投資被害・違法勧誘・販売行為の類型という観点から解説しましたが、投資被害を回復するためには具体的にどのような手段・方法があるのか、次の記事[金融商品取引と投資被害(2)]で解説いたします。