相続登記の義務化スタート!何からはじめたら?
2024年4月1日より、土地と建物の相続登記が義務化され、名義人の死亡から3年以内に相続登記を申請しなければならなくなりました。
相続登記とは?
土地、建物の所有者が死亡した場合、死亡した人は所有者になりえません。そのため、登記されている所有者(所有権の名義人)の変更が必要ですが、不動産登記の情報は自動では変更されません。登記上の所有者の死亡により、不動産登記の所有権の名義人を変更する手続きを「相続登記」といいます。
これまでは相続登記をしないでいても特に罰則はありませんでした。また、登記申請のタイミングも定められていなかったため、死亡した所有者の名義のままにしておくことも可能でした。しかし、そのようにして相続登記がされていない(未登記のままになっていた)土地と建物についても、2027年3月末までに相続登記をすることが義務化されました。
不動産を相続したら、早めに登記申請を行いましょう。
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相続登記をすることになったら
皆さんの中には急に相続登記をしなければならなくなった方もいらっしゃるのではないでしょうか。ここでは相続登記の進め方について説明します。
Ⅰ 3つの事前調査
相続登記の前に、次の調査が必要です。
① 故人の土地と建物の調査
② 登記上の所有者の調査
③ 相続人の調査
上記の①~③について順を追って説明します。
① 故人の土地と建物の調査
故人が所有しているのは自宅とその敷地だけ、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、一概にそうとは言えません。私道や隣接道路の共有持分が含まれている、同じ敷地内の物置が母屋と別の建物で登記されているなど、本人が認識しないままに登記上の所有者になっている土地や建物もあります。
まずは、故人が土地や建物を取得したときの権利証、役所から毎年送られていた固定資産課税明細、市町村(都内は都税事務所)で名寄帳を閲覧するなどして、故人の土地と建物を調査しましょう。
② 登記上の所有者の調査
次に①で調べた土地と建物について、法務局で不動産登記事項証明書を取得して、登記上の所有者を調査しましょう。
特に固定資産課税明細や名寄帳で確認したものについては、登記上の所有者が故人でなく、その先代、先々代だった、という話はよくあります。(例:父親の所有だと思っていた土地の登記上の所有者が、数十年前に死亡した祖父のままだった)
登記上の所有者が先代等のままの不動産についても相続登記が必要ですが、その当初の相続人も死亡することで相続人の人数が増えていることが多く(このようなケースを「数次相続」といいます)、後述の法定相続人の調査と遺産分割の協議がより煩雑になりますので、ご注意ください。
③ 法定相続人の調査
①②を進めるのと並行し、戸籍を収集して相続人の調査を進めます。
具体的には、まず故人の最後の住所で住民票の除票(死亡の事実が記載された故人の住民票)を入手して、そこで死亡時の戸籍の本籍地を確認します。
この本籍地を起点に次の戸籍を収集して、法定相続人を確認していきます。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を全部
- 先に死亡した子がいる場合は、その子の出生から死亡までの戸籍謄本を全部
- 子がいなくて(または子全員が死亡し孫もいなくて)、両親が死亡している場合は、両親の出生から死亡までの戸籍謄本を全部
- 子がいなくて(または子全員が死亡し孫もいなくて)、両親も死亡していて、さらに先に死亡した兄弟姉妹がいる場合は、その兄弟姉妹の出生から死亡までの戸籍謄本を全部(さらにその兄弟姉妹の子が死亡している場合は、その子の死亡がわかる戸籍)
- 相続人の戸籍(連絡先が不明の相続人は、戸籍の附票も取得する)
婚姻、養子縁組などによる本籍地の変更のため、故人の戸籍が複数の市区町村役場に散らばって存在していることがよくありますが、2024年4月より、1か所の役所窓口で全国の市区町村の戸籍が取得できるようになりました。最寄りの役所窓口に確認してみてください。
戸籍の収集ができたら、法定相続情報一覧図(相続関係を一覧に表した図)を作成のうえ、法務局に提出して認証文を付した写しの交付を受けることをお勧めします。
相続登記のほか、被相続人名義の預金の払戻し手続や相続税の申告などでもこれらの戸籍の提出を求められますが、認証文付きの法定相続情報一覧図があれば1枚の用紙で代用できるので便利です。
被相続人の後で相続人も死亡している数次相続のケースでは、死亡した相続人についてもこれらの戸籍を収集してさらに次の相続人を調査していきます。収集する戸籍が膨大な数になることが多いのでご注意ください。
Ⅱ 遺産分割の協議(相続人が複数の場合)
事前の調査で故人が所有者として登記されている土地や建物がわかり、法定相続人も確定しました。次に検討するのが、相続人のうち誰が実際に相続するか、つまり、どのように遺産分割をするかです。
※相続人が1人の場合は必要ありません
法律上は、民法で相続する割合が定められており、故人の不動産はその相続の割合により法定相続人全員の共有となります。しかし、全員の合意があれば、異なる方法により相続することもできます。例えば、相続人のうちの1人または一部の相続人が全て相続する、民法の定めと異なる割合で相続するなどです。この全員の合意を取りまとめることが、「遺産分割」です。
遺産分割は、次の①から⑥の手順で進めていきます。
- 相続放棄をしているか
- 相続放棄をしていない場合は、故人の不動産の相続を希望するか
また、④で取得した印鑑証明書を法務局に提出するため預かる
なお、被相続人の後で相続人も死亡している数次相続のケースでは、死亡した相続人に代わりさらにその次の相続人による遺産分割協議書への押印と印鑑証明書の提出が必要です。押印が必要な人が数十人単位の多数になることもありますのでご注意ください。
Ⅲ 相続登記の申請
遺産分割協議書へ全員の署名押印が完了したら、実際に相続する相続人(複数の相続人が相続する場合は共同で)が、法務局へ相続登記を申請します。
しかし、申請書を提出するだけでは登記をしてもらえません。法務局としても、登記名義人の死亡、申請者が相続人であること、法定の相続の割合と異なる方法での申請の場合は法定相続人全員による遺産分割の合意がされていること、などの確認が必要だからです。また、登録免許税という税金を計算して法務局に納付する必要があります。
それでは、登記申請までの手順(①~⑧)を説明しましょう。
なお、認証文付きの法定相続情報一覧図に申請者の住所の記載があれば取得不要です。
死亡時と異なる場合は、その記載されている住所から死亡時までの住所の変遷がわかる故人の戸籍の附票を取得します。
事前の調査で取得した戸籍をもとに、故人と法定相続人全員の家系図を作成します(手書可)。なお、認証文付きの法定相続情報一覧図があればこの作成は不要です。
最新の固定資産評価額が記載された固定資産課税明細を用意して、評価額を確認しましょう。※記載がない場合もありますのでご注意ください。
- 評価額が100万円未満の土地
登録免許税は0円 - それ以外の土地及び建物
評価額の1000円未満を切り捨てた金額に1000分の4をかけて100円未満を切り捨てた額
なお、故人が共有する不動産については、固定資産課税明細の評価額に故人の共有持分を掛けた額を評価額として上記のとおり登録免許税を計算します。
前述の①~③の書類と、④の固定資産課税明細、認証文付きの法定相続情報一覧図(未作成の場合は事前の調査で取得した全ての戸籍)、遺産分割で法定相続人全員が押印した遺産分割協議書とその印鑑証明書、相続放棄をした人の相続放棄申述受理証明書および法務局の返送用にレターパックプラスなどを用意します。
法務局が公表している見本をもとに作成します。
なお、申請書は故人単独所有と共同所有とで、また、相続する人ごとに(相続人は同じでも相続の割合が異なる場合はそれごとに)不動産を分けて作成します。
申請書が複数枚に分かれる場合でも一緒に申請はできますが、申請書にナンバリングをして番号を右上に記載しましょう。
例)申請書が3枚ある場合は、それぞれの申請書に「連件1/3」「連件2/3」「連件3/3」と右上に記載します。その上で、共通して提出する書類は、先の番号の申請書にまとめて添付します。
※後の申請書に記載する提出書類には「前件添付」と補記します。
登録免許税は収入印紙で納付します。④で計算した額に相当する収入印紙を法務局に設置されている印紙販売所で購入します。紛失しないように、販売所で(なければ近くの郵便局で)、申請直前に購入することをお勧めします。
購入後、⑥の申請書に貼付します。
※消印はしないでください
収入印紙を貼付した⑥の申請書と⑤の書類一式を、法務局に窓口に提出します。
Ⅳ 相続登記をしなかった場合、どうなるのか
今後は、正当な理由なく相続登記をしないまま3年が経過すると、法務局から過料の支払いを要求されることがあります。
それ以外にも、相続登記を申請しないでいると次のような不利益を受けることがありますので、心当たりがある方は注意してください。
- 法定相続人の債権者が法律上の持分を差し押さえてしまうおそれ
例えば、相続人が長男と次男の2人(民法での相続の割合は2分の1ずつ)の場合で、両者の合意で不動産の全てを長男が相続する合意ができていた一方、次男には多額の借金があるとします。
次男の債権者からすれば、債権の回収のために、次男が相続する財産を差し押さえしたいところです。この場合、債権者側から法律上の相続の割合により相続登記を申請の上、次男の持分(2分の1)に対して差し押さえをされる可能性もあります。
長男には、法律上の相続の割合である2分の1の持分は保障されますが、それを超える部分は差し押さえられる前に相続登記をしておかなければ、次男の債権者に対抗できなくなります。相続人の中に多額の借財など抱える人がいる場合は、このようなことに気を付けてください。 - 故人への寄与分が認められなくなるおそれ
相続人の中に、故人の財産の維持または増加について特別な寄与をした人がいるときは、その分はその相続人に有利になるように調整することとされています。しかし、故人の死亡から10年が経過するとこれが認められなくなります。その結果、故人の財産への貢献について全く配慮されなくなってしまいます。
故人の事業に関する労務の提供または財産上の給付、療養看護で貢献などされた方は、この点でも早めの遺産分割をお勧めします。
Ⅴ 遺産分割がまとまらない場合の対応
相続人の間で意見の食い違いがあり遺産分割がまとまらない、ということもよくあります。それでも3年以内に相続登記をする義務を免れることはできません。その場合、次の2つのいずれかの対応をとってください。
この方法は遺産分割協議不要で登記できます。また、相続人のうちの1人が単独で申請できます。
なお、後で遺産分割がまとまった場合でも、その遺産分割内容に合致させるように登記申請をすることが可能です。
相続登記の義務化に併せて、簡易に相続登記の申請義務を履行することができるようにする仕組みとして、「相続人申告登記」が新たに設けられました。
必要な戸籍の証明書(戸除籍謄本等)等を添付して、自らが登記記録上の所有者の相続人であること等を期限内(3年以内)に不動産を管轄する法務局に申し出ることで、相続登記をしなくても、義務を履行したことにできます。
この申し出は、相続人の1人から単独ででき、必要な書類も申出人が登記記録上の所有者の相続人であることが分かる戸籍と住民票だけでよいなど、相続登記と比べると簡便な手続きです。
- 故人の死亡後3年以内に申請する必要があります。
- 相続人申告登記は、相続登記申請義務を法的に履行したことにするだけの応急措置です。実際に相続登記をしたことにはなりません。
- 相続人申告登記をしても、登記上の所有者が相続人に変更されません。登記上の所有者を変更するには相続登記が必須です。
以上、今回は相続登記の義務化について解説させていただきました。当グループでもご紹介した手続きの相談や代行等のサービスを行っておりますので、必要な方がいらっしゃいましたらお気軽にご相談ください。